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杏里の楽美(旅)日記

趣味だったらここまでやってないわよ。半世紀アイヌ文様を描くお慶さんの仕事論。 (47都道府県出張ネイル~1/47北海道編~)

「こんばんは~。○○さん、今お店やってますか~?」

「あら○○ちゃん!もちろん大丈夫だよ座って~」

たんちょう釧路空港からバスで約1時間。北海道のアイヌコタンというところは、顔を合わせればみんな名前で呼び合うような、とても温かい場所だった。長らく東京を拠点にしていたリッホにとってはなかなか経験できなかった人との距離感。

木彫りの建物、カラフルで独特な文様、集落の入り口では、大きなフクロウが羽を広げてお出迎えしてくれている。アイヌコタンのお店で初めて食べたランチは、その土地ならではの山菜と鮭の汁物、そして味わったことのない独特な風味のシケレべ茶だった。(シケレべ=アイヌ語で「キハダの実」。ジャスミン茶が好きなリッホは割と飲めた)

47都道府県出張ネイルは、この北海道アイヌコタンからスタート。のっけからすごい場所に来たな…と緊張気味のリッホ。一足しか持ってないヒールブーツでなんとかザクザクと雪の坂道を登りながら、案内してくれるお姉さんについていった。

アイヌコタンは、観光客向けのレストランやお土産屋さん、アイヌならではの雑貨屋などが道の両脇にズラリと並んでいる。その中の一つに、木の看板で“ユックレップ”と描かれているお店があった。

「ここのお店やってるお慶さんが、アイヌ文様をデザインしてる人なのね」

冬の間はお店を閉めて、注文された物を作ったり、次のシーズンに向けて商品を用意しているのだそう。そのお慶さんにネイルをできないかと相談させていただき、有難いことに次の日にネイルをしていただけることになった。

「カニ族って知らない?」

「えっと、北海道にカニ食べに来る人のことですか?」

「違う違う!カニみたいに甲羅(リュック)しょって来る人のことだよ」

高度経済成長の1960-70年代に旅行ブームが到来し、その時は北海道の認知度も急激に広がった。当時の若いバックパッカーが背負っていたリュックは横長で、列車の通路や出入口等は横歩きでないと通れなかったことから、このような名前で呼ばれていたという。当時は北海道ブームや知床ブームと盛んに言われていたようで、全国からアルバイトで北海道に来る若者が多く、広島出身のお慶さんもそのうちの一人。当時の勤務先で、アイヌの旦那さんとご結婚されてから約50年、この場所でアイヌ文様を作り続けている。

「アイヌコタンのどういうところが魅力的だなって思いますか?」

「ん~来た季節がよかったかもしれないね。暖かいときに来たから。寒いときにきたら絶対選ばなかったかもしれん。(笑)でも緑はきれいだわ空気はおいしいわっていうのが一番良いわね。」

沢山の森林に囲まれている阿寒湖アイヌコタンは、日本全国の中で最も酸素濃度が高く、日本で一番空気がきれいな場所と言われているとのこと。こうなると暖かいシーズンにも行きたくなってくる。

「仕事の転勤でここに来た親御さんとかは、子供を阿寒の幼稚園に行かせたいって言ってるね。やっぱり自然がいっぱいだから。」

趣味に片付けられるというのはちょっと違う。お慶さんと仕事の話。

「仕事だから本気で向き合ってできてる感はあるわよね。だから、私カチンときたことあるよ。『いいですね~素敵な趣味があって。』って前に人から言われて。趣味だったらこんなとこまでやってないわよ。」

取材&施術の様子。

お慶さんの数十種類ものアイヌ文様を眺めてどれをネイルデザインにしようかと考えながら、その言葉がすごく身に染みた。かつての私は、ネイルを趣味程度にとどめていたときもあったのだが、趣味と仕事はやっぱり違うものだ。

「商売に結びついた途端に苦しいこともあるよ。売り物を作るって段階になると楽しみが無くなることもある。でも仕上がったときに想像よりうまくできたときは嬉しくなるし、気に入ってくれて買ってくれた時も嬉しい。そういうときがあるから、またやるか~ってなるのよね。仕事ってそういうことよね。」

そんなお慶さんがアイヌ文様を作るときは、何を考えているのだろうか。

アイヌのテクンペ。手の甲には刺繍が施されている。

「自分で刺繍自分で作ってて思うのはね、お客様は何を見て選ぶのかな?って見てると、まず色なんだよね。色の次、デザイン。その次、仕事なんだよね。デザインもできないといけないし、併せて色をね、考えないといけない。あとカッコイイ模様がいいなって思って作ってる。じゃあそのカッコイイってどんなものなのかなーって考えたときに、シュッとしたような、シンプルなデザインなのかなって思うんだけど、そのシンプルが難しいのよね。

「デザインはまとまった時間をとって考えたりするんですか?」

「いやあチラシなんかに描いてるよ。改めて描こうって思うときもあるけど、めったにない。でも自分でやっていると、同じような模様になっていくのよね。」

アイヌ紋様はデザインする人によっても少しずつ違ってくる

趣味だったらどんなに楽かと思う日もあれば、

仕事だからこそ楽しいなと思う日もある。

シンプルと個性の共存。

どんなジャンルのクリエイターでも、苦悩や課題の最大公約数は似ているのかもしれない。

話しているうちに、お慶さんのデザインを活かした手元のネイルは完成した。アイヌの代表的な濃紺の色合いに、白と赤のライン。そして集落を歩いて印象的だった木彫りの雰囲気も足してみた。北海道に行く前にこんな感じかなあとネイルデザインをいくつか作っていたものの、最終的に出力したものは全然違っていた。やはりその場所へ行ったからこそ閃くデザインがあるのだな。そんなことを初めて体験した、記念すべき47都道府県ネイルの1作目。

「お慶さんは、今後やりたいことはあったりしますか?」

「私外国に行きたかったんだよなあ。ちょっと体調崩したりコロナが出てきたりとかして行けてないけど…。若い頃は踊りでも行ったんだよ。アイヌの保存会とか入っていると。個人ではアラスカ行ってオーロラ見たり、イタリア行ったり、モロッコ行ったりしたんだよ。すごくよかった~。モロッコもう一度行きたい。」

モロッコは、リッホ自身もコロナ前に行けた最後の海外旅行だった。アイヌコタンのお店に置かれている雑貨やお面がモロッコのそれと似ていたので、何かルーツがあるのかなと思うほどだ。

これもアイヌのお店にあったのだがまさにモロッコでも同じようなお面があった。
これがモロッコのお面。ちょとグロい。

「行くためには自分でお金貯めて働かなくちゃと思って意欲が出てくるでしょ。」

「ほんとそうですよね」

こんなにも長年文様を作り続けているお慶さんと、仕事のモチベーションの一つが一緒だったのが嬉しい。

ネイルが終わってから、お慶さんのお店「ユックレップ」の中を特別に見せてもらった(冬の間はお店は閉まっているため、行くなら暖かいシーズンに!)。ズラリと並ぶアイヌ文様のアクセサリー、バッグ、服…。伝統的な刺繍と木彫りで様々な場所で使われているアイヌ文様は、くるくるとトゲトゲの組み合わせで作られている。その特徴的なデザインは諸説あるが、魔物が身体に入ってこないようにという魔除けの意味合いがあると言われている。

私が印象に残ったお慶さんの文様はひとつひとつがアイコンマークのようで、マスクをはじめ小物のワンポイントとしても使われており、言葉通り「シンプルでかっこいい」デザインを目指したお慶さんの想いが、そのまま体現されているものばかりだった。

【北海道編・お慶さんから学んだこと】

①    趣味では到達できない領域がある。

②    お客様は色、デザイン、仕事を見ている。

③    仕事のモチベーションはお客様の喜び。そして旅。

お慶さん、ありがとうございました!

47都道府県出張ネイルは、北陸地方へと続く…。

To be continued…

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